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仙台高等裁判所 昭和37年(う)403号 判決 1966年3月01日

控訴人 被告人

中村権一 外一名

検察官

主文

原判決中、被告人中村権一に関する部分を破棄する。

被告人中村権一を懲役六月に処する。

但しこの裁判確定の日から二年間、右刑の執行を猶予する。

被告人両名の本件控訴は、いずれもこれを棄却する。

原審における訴訟費用中、証人新明正道、八島善次郎、内海衛、久保博、大山博、渡部教義、大出俊、鈴木丑太郎、森田喜隆、大内安夫、山口俊一郎、川辺忠雄、馬場治昭、中村栄助に支給した分の全部並びにその余の訴訟費用の三分の二(但し証人遠藤忠夫に対し昭和三五年七月一九日、同月二〇日、同年八月一二日、昭和三六年六月一日に各支給した分、証人三浦新八に対し、昭和三五年一〇月五日、同年一二月二三日に各支給した分及び証人日下勉に対し同日支給した分を除く。)は被告人中村の負担(被告人木村と連帯)とし、当審における訴訟費用中、証人宝樹文彦、野村平爾、松岡三郎に支給した分の五分の二、同内海衛に支給した分の二分の一、同魚津茂晴に支給した分の三分の一、同菅原保雄、渡辺大司、藤牧直、松井節夫、松井光夫に支給した分は被告人両名の連帯負担とする。

理由

本件検察官の控訴趣意は、検察官柏木忠名義の控訴趣意書記載のとおりであり、被告人の控訴趣意は、弁護人東城守一、栂野泰二、小谷野三郎共同名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、それぞれこれを引用する。

弁護人らの控訴趣意第一(郵政省当局の団体交渉拒否について、憲法二八条を適用しない違法)について、

所論は被告人らの所為の正当性の主張に対する前提として、公労法四条三項(昭和四〇年法律第六八号による改正前のもの、以下同じ)は、憲法二八条、I・L・O条約第八七号、第九八号に違反し無効である旨主張する。しかし憲法二八条との関係については、さきに最高裁判所が地方公務員に関して判断した(最高裁判所昭和三六年(オ)第一一三八号昭和四〇年七月一四日大法廷判決)と同様の理由により、公労法四条三項の規定は、憲法二八条に違反しないと解するのが相当である。即ち、勤労者の団結権等も公共の福祉のため制限を受けるのは、やむを得ないものであり、右制限の程度を具体的に立法により決することは立法府の裁量に属し、その制限の程度がいちじるしく両者の均衡を破り、明らかに不合理で、右の裁量の範囲を逸脱したと認められない限り、右の制限は合憲、適法なものと解すべきところ、郵政職員についても、国家公務員法、公労法により職員の労働基本権を一応保護していること、また公務員たる性格に基づく職責からして、職員の秩序は公共の利益のため特に確保されなければならないことにかんがみれば、立法府が非職員の職員団体への参加を認めないとして職員の団結権をこの限度において制限したのは、前記の適正な均衡をいちじるしく破り、明らかに不合理であって、その与えられた裁量権の範囲を逸脱したものとは認められないものである。それ故公労法四条三項の規定は憲法二八条に違反するものということはできない。つぎにI・L・O条約第八七号は、本件当時我国において批准されていなかったのであり、またその内容が国際判例法を形成しているとも解されないし、確立された国際法規たる性格を有するものとも解し得ないから、公労法四条三項が右条約の条項に反するからといって無効であるとはいい得ない。なおまた公労法四条三項が、未だもってI・L・O条約第九八号に牴触するものとは解し得ない。

のみならず、本件は、全逓信労働組合側に対する郵政省当局側の団体交渉拒否がその原因となり、被告人らの組合活動に関連して発生したものであることは、原判文により明らかであるけれども、原判決の罪となるべき事実として判示された被告人らの所為は、後にも示すように、その行為自体に徴しても、明らかに組合活動としては行き過ぎた違法行為と認むべきものであつて、公労法四条三項の有効、無効、郵政省当局側の団体交渉拒否が不当労働行為なりや否やは、右犯罪の成否に影響がないものと認められる。また後にも示すように、組合側の本件当日の行動をみるに、早朝仙台郵政局庁舎の入口ガラス戸、各階の階段、壁等に約三、〇〇〇枚ものビラを貼り、呼子を吹き鳴らして庁内デモを展開し、更に約二〇〇人が当局の禁止を実力で押し破つて庁内に押し入り、デモを実施し、扉の止金を破壊するなどし、このような情況を背景に団体交渉を迫つたものであつて、かかる情況においての当日の仙台郵政当局の団体交渉拒否の措置は、特に不当と認められないのであり、これらの事情を参酌してみると、前記公労法四条三項の有効、無効、従来の仙台郵政当局の団体交渉拒否の当、不当は本件被告人らの所為に正当性の評価を与えるものでないのみならず、本件量刑にさし響くものとは考えられない。それ故右公労法四条三項の有効、無効、郵政当局側の団体交渉拒否の当、不当を判示することは、本件において必ずしもその必要がないものである。かつ右の点の主張は刑訴法三三五条二項、所定の主張に当るものでないから、原判決がこの点の判断を示さなかつたことに違法はない。論旨は理由がない。

同第二の第一点(原判示第一の事実につき、公務執行の適法性に関する事実誤認、法令適用の誤り)について、

原判決は全逓信労働組合東北地方本部事務室の使用権限につき、私法上の使用貸借か、特許使用に当る旨判断しているところ、記録並びに当審における事実取調の結果を総合するに、右事務室使用の法的性質はさておき、少くとも右事務室内部に、仙台郵政局公物管理権者の管理権が絶対に及ばないものとは解し得られない。特に事務室使用許可の書面(記録三九三八丁参照)中、使用については管理権者の命に服し、業務の運営を阻害したり秩序を乱したりなどしない旨の内容を参酌すれば然りである。本件動員組合員等が仙台郵政局庁舎内の平穏を乱す行為に及んだ際、その危険排除のため、右管理権者が庁舎管理権に基づいて、右事務室内にいるこれらの者に退去を命ずる具体的権限があるものと解すべきである。庁舎内にかかる平穏を乱す分子のいることを認容しなければならないとは到底考えられない。この点の原判決の判断は正当である。その他原判決の所論退去命令に関する判断は相当と認められ、右退去命令が所論のように不当労働行為として違法であるとは認められないし、右命令書の内容並びにこれが伝達方法に関する原判決の判断は相当と認められる。記録を精査し、当審における事実取調の結果を総合しても、原判決には以上の点につき判決に影響を及ぼすような事実誤認があるとか、法令の解釈適用の誤りがあることは認められない。所論は独自の見解で採るを得ない。論旨は理由がない。

同第二の第二点(原判示第一の事実につき、故意についての誤認)について、

原判決挙示の証拠からすると、原認定の経緯から、被告人中村において、所論疋田与吉の職務執行中であることの認識は当然あつたものと認め得られるものであり、かつ被告人中村が、右職務執行が違法であると信じていた事実は認められないところである。記録を精査し、当審における事実取調の結果を総合しても、右の原認定に誤りあることは見出し得ない。論旨は理由がない。

同第二の第三点(原判示第一の事実につき、暴行についての事実誤認、法令の解釈適用の誤り)について、

原判決挙示の証拠によると、所論の暴行行為に関し、原認定は可能であり、かつその暴行の程度も、職務執行の妨害となるべき程度のものであることが十分に認められる。記録を精査し、当審における事実取調の結果を総合しても、右原認定に誤りあることは認められないし、かつ所論法令の解釈、適用の誤りも認められない。論旨は理由がない。

同第二の第四点(原判示第一の事実につき、正当防衛の成立に関する誤認、法令の解釈適用の誤り)について、

原判決は、被告人が疋田建築部長を組合事務室から押し出した行為をもつて正当防衛に当るとし、同部長が廊下に押し出された後は、不法侵入は排除され、急迫不正の侵害は去つた旨判断しているのであるが、後述のように、疋田建築部長を組合事務室から押し出した行為自体も、正当防衛とは認められないものであつて、疋田部長が押し出され廊下に出た後、再度同人が事務室に入ろうとしていたとしても、この所為をもつて、不正の侵害行為とは認め得られないものである。この点につき正当防衛が成立する余地のない旨判示した原判断は結局において正当である。従つて原判決には所論のような法令の解釈適用又は事実認定の誤りはなく、論旨は理由がない。

同第三の第一点(原判示第二の事実の事実誤認)について、

原判決が所論の判断のもとに、労働組合の方で限度をこえ、あくまで退去を拒み、長時間にわたつてその場を去らないときは、当然不退去罪が成立するとし、これが本件の場合にもあてはまるとしていることは、総て正当と認められる。なお前にも示したように、当日の仙台郵政局人事部長らの団体交渉拒否は、特に不当と評価し得ないのみならず、右拒否が、憲法やI・L・O条約に違反するや否やの判断が本件では必ずしも必要があるとは認められないし、原判決の右認定に事実誤認があるとはなし得ない。また原判決挙示の証拠によると、原判決が「本件では、林人事部長は被告人ほか二名が人事部長室に入つてから、約一時間、局長との団体交渉の諾否について話し合つたが、どうしても被告人中村らの納得を得るに至らず、遂にそれ以上交渉を続けても妥協の余地はないと考え、交渉を打ち切つたものであり、そのときまでの闘争の経過や当時の具体的状況等諸般の事情に鑑みても、それが労働組合の団結権に対する不当な侵害であるとは考えられない」と判示したことは相当と認められるし、続いて「しかも被告人中村らは、平和的な方法で説得を続けるのではなくして、偶々不法に人事部長室に侵入した多数の組合員と相呼応して暴力的な行動に及んだものであり、このようなことはもはや正当な団体交渉権の行使とはいえない」旨判示したことも十分に認定諒解し得られ、記録を精査し、当審における事実取調の結果を総合しても、以上の原判示に誤りあることは見出し得ない。所論の見解は採用し得ず、論旨は理由がない。

同第三の第二点(原判示第二の事実につき、法令の解釈適用の誤り、理由不備)について、

しかし原判決挙示の証拠によると、原判示第二の、被告人中村、木村が他の組合員およそ四〇名と互に意思を共通にしてなした、不退去の事実も優に認定可能である。また原判文によると、被告人木村に関しては、被告人中村の不退去の所為につき、被告人木村の共謀加功を認定し、その共同正犯としての罪責を問うたものであつて被告人木村自身の不退去の所為を不退去罪として独立に問うているものでないことが明らかである。被告人木村が被告人中村の不退去に先立ち、住居侵入により同室していたからといつて、該侵入を問うことなく、原認定の右被告人中村の不退去につき共同正犯としての罪責を問うことは可能である。所論は採るを得ない。つぎに原判決は、右不退去の所為につき、午後二時三〇分頃から午後三時三〇分頃まで、と認定しているのであるが、原判決は、原判示林人事部長が、被告人中村ら(被告人木村を除く)と約一時間押問答し、これ以上話し合つても無駄だと判断し、交渉を打ち切る旨告げ、座を立ち自席にもどり、被告人中村らがなお人事部長に迫つているうち、被告人木村ら数十名が同室に押し入り、そして管理者から退去を要求されたものであることを判示しており、結局右不退去は、右の退去要求のあつた時以後のことを認定したことが認められる。所論のように、前記交渉打ち切り宣言と同時に不退去罪が成立する旨認定したものでないことは明らかである。従つて原判決に所論のような理由のくいちがいはない。また原判決が「長時間にわたつてその場所を去らないときは、不退去罪が成立する。」と前提しながら、前記二時三〇分頃から三時三〇分頃までの不退去罪を認定したことは、その時間の表現上多少不一致の感を生ぜしめないでもないけれども、右の時間をもつて、具体的事情に照らし、長時間の概念に該当しないものともなし難く、いずれにしてもこのことは何等犯罪成立の結論に差を生ずるものでなく、この程度のものをもつて理由不備の違法があるとはなし得ない。つぎにまた前説示のように、被告人らは、平和的な方法で説得を続けたのではなく、不法に人事部長室に侵入した多数の者と相呼応して暴力行動に及んだものであり、もはや正当な団体交渉権の行使といえないものであつて、被告人らの本件不退去の所為は、もはや労働組合法一条二項の適用を受けるに値するものとは認められない。また所論人事部長室についても、同人を管理権者とする住居平穏の保護法益を否定し得るものでなく、被告人らの右不退去が、憲法二八条により保障された団体交渉権具現のための正当な行為とは認められない。この点の所論の見解は採用し得ない。結局原判決には所論のような法令の解釈適用の誤りや理由不備はなく、論旨は理由がない。

同第四の第一点(原判示第三の事実の事実誤認)について、

しかし原判示第三の事実は、その挙示する証拠により、意思共通の事実、その他その言動内容すべて認定可能である。原判決が右言動内容をもつて、脅迫並びに暴行と判断したことは相当と認められ、記録を精査し、当審における事実取調の結果を総合しても、原判決の採証に違法があるとか、右判断に誤りあることは見出し得ない。論旨は理由がない。

同第四の第二点(原判示第三の事実につき、法令の解釈適用の誤り、理由不備)について、

しかし原判決が、所論人事部長室内のデモ行為等が、正当な限界を逸脱したものと判断したのは相当と認められ記録並びに当審における事実取調の結果を総合しても、その手段方法をもつて、社会的に正当視される範囲に止まるものとは認められない。また刑法にいわゆる暴行の概念と、労働組合法一条二項にいわゆる暴力の行使とは、特に別個の観点から評価しなければならないものとは解し得られないのみならず、原判決が暴行と認定した本件所為が、刑事免責にあてはまるものとは認められない。つぎに所論の人事部長室内のデモ行為にしても、正当な示威行動と認めることは到底困難であるし、原判示第三の一の暴行につき、被告人中村についても、これが意思共通の加功を認定し得ることは前判断のとおりであつて、原判決が同被告人につき所論の幹部責任を認めたものでないことも明白である。かつまた同被告人の所為が、混乱を避け、事態拾収のためなしたものであるとも認められない。なおまた原判決は、脅迫にならない個々の行為の集りをもつてそれが全体として脅迫となると認定したものでなく、被告人らの作り出した行為当時の異常な気勢、威迫感を全部除外して考えれば、単に個々の行為それだけでは粗暴な言辞としかいえず、罪とならないものもある旨判示し、右それだけでは粗暴な言辞としかみられないものでも右のように異常な事態を作り上げたその中の行為として観察すべきものであるから、これも違法行為の中に入る旨を含めて判断したもので、団結の集団性自体を犯罪視したものでないことが明らかである。そして原判示の事実そのものは、多衆の威力を示し、かつ多数の者が共同して脅迫したことに該当するものと認むべきものである。原判決に所論のような違法は認められず、論旨は理由がない。

同第五(自救行為又は期待可能性の法解釈適用の誤り)について、

本件は仙台郵政局側の団体交渉拒否が因となり発生したものであることは、原判決の認定するとおりであるが、被告人ら組合側の行動をみるに、被告人ら統率のもとに、早朝、仙台郵政局庁舎の入口ガラス戸、各階の階段、壁等に約三〇〇〇枚ものビラを貼り、呼子を吹き鳴らして庁内デモを展開し、更に約二〇〇人が当局の禁止を実力で押し破つて庁内に押し入り、デモを実施し、扉の止金を破壊し、そして原判示の暴行、脅迫、不退去にいたつたもので、社会通念上明らかに常軌を逸しており、この一連の行動から評価した場合、被告人らの本件所為は、法を越え実力を基として目的を押し遂げようとしたものと認めざるを得ないのであつて、法治主義のもとにおいて到底是認し得るものでなく、所論の自救行為に該当するとか、他にとるべき方法がないものであるとはなし得ない。そして被告人らが本件において組合運動の秩序維持のために万全の努力を払つたとは認め得ないものである。所論の見解は採用し得ず、論旨は理由がない。

検察官の控訴趣意第一点(法令適用の誤り)について、

原判決は、本件公訴事実中、被告人中村が、全逓信労働組合東北地方本部事務室内で、職務執行中の仙台郵政局建築部長疋田与吉に対し暴行を加えてこれを室外に押し出したとの公務執行妨害の点については、右疋田部長の組合事務室立入り行為を住居侵入罪に該当する不法な侵入とし、急迫不正の侵害と判断して、被告人中村の右行為を正当防衛としている。

ところで本件集団交渉における示威運動のため特に動員された組合員らが、早朝から庁舎内で管理者側の制止警告を無視してビラ貼りやデモを行い、庁舎内の平穏を乱すような行動に及んだ場合、右組合員等が一時組合事務室に引揚げたとしても、庁舎管理権者は庁舎の秩序維持のため、その有する管理権に基づいて、これが危険を排除できるのであつて、右管理権者は、右事務室内の右組合員らに退去を命じ得るものであることは、さきにも判断し(弁護人の控訴趣意第二の第一点)原判決説明のとおりである。これを基として考察すれば、少くとも右退去命令実行のため、これが命令書を伝達すべく、庁舎管理権者が右事務室に立入ることは法的に可能と解すべきものである。即ち庁舎管理権者は、少なくとも右の限度においては、庁舎管理権に基づく立入り権限があるものと解するのが相当であり、組合側においては、これが受忍の義務があるものと解すべきものである。従つて疋田部長が退去命令伝達のため右事務室に立入つたのは、組合側管理者(被告人中村と認められる)の意思に反したとしても、住居侵入罪を構成するものでないといわなければならない。原判決が右疋田部長の所為を、住居侵入に該当する不法なものとしたのは、法令の解釈適用を誤つたもので、この誤りは原判決の認めた正当防衛の成立を否定する結果となり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、被告人中村に関し、原判決破棄事由となるものである。そして被告人中村の右公務執行妨害の所為は、原認定の別の公務執行妨害罪と包括して一罪を構成し、他の原認定の罪と併合罪の関係にあるものとして一個の刑を科すべきものと認められるから、被告人中村に関し、原判決は全部破棄を免れない。(以上により原判決を破棄すべきものとする以上、前記事務室使用の法的性質を論ずることはその必要がないから、これを省略する。)

検察官並びに弁護人らの各量刑不当の控訴趣意について、

記録により、本件各犯行の経緯、態様、本件後I・L・O条約第八七号が批准されたこと等の事実、本件当時における被告人らの組合における地位、その他諸般の事情を総合してみるに、被告人らに対する原審の量刑は、重過ぎるものとは認められない。そしてまた被告人中村に関し、有罪部分が追加されることを考慮してみても、特に同被告人に対する原審の量刑を変更しなければならない程軽過ぎるとは認められない。論旨はいずれも理由がない。

よつて被告人両名の本件控訴は、いずれも理由がないから、刑訴法三九六条により、これらを棄却し、被告人中村に関する検察官の控訴に基づき、同法三九七条一項、三八〇条により、原判決中同被告人に関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書に従い、当裁判所においてつぎのとおり判決する。

原判決の確定した「(本件犯行に至る経緯及び犯行前後の事情)」、並びに被告人中村に関する「(罪となるべき事実)、第一、第二、第三の一」のほか、

原判示罪となるべき事実第一の、「被告人中村は……(中略)……同被告人に退去命令を手交しようとしたので」、のつぎに、『「なにしに入つてきやがつたんだ」と怒鳴りながら、やにわに両腕を組んだ姿勢で正面から疋田部長の体に自己の体をぶつつけ、同部長に暴行を加え』と附加する。

(右附加部分の証拠)

原判決がその第一事実につき摘示した証拠を引用する。

なお弁護人らは、(イ)疋田建築部長の職務執行が適法性を欠く、(ロ)また被告人中村が右部長を組合事務室から退去させた行為は、正当防衛であると主張するが、右(イ)、(ロ)の主張の理由のないことは既に判断したとおりであるから、右主張はいずれも採用し得ない。

(法令の適用)

被告人中村の公務執行妨害の点は包括して刑法九五条一項に、住居侵入(不退去)の点は同法六〇条、一三〇条後段に、暴力行為等処罰に関する法律違反の点は同法律一条一項(昭和三九年法律第一一四号による改正前のもの)に、(後者の二罪についてはなお罰金等臨時措置法二条、三条を適用する)、それぞれ該当するが、後者の二罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重いと認める暴力行為等処罰に関する法律違反の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役六月に処し、なお刑法二五条一項を適用し、主文三項のようにその刑の執行を猶予することとする。

(訴訟費用の負担)

被告人木村の当審における訴訟費用の負担並びに被告人中村の原審と当審における訴訟費用の負担につき、刑訴法一八一条一項本文、一八二条を適用し、主文末項のように負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 細野幸雄 畠沢喜一 寺島常久)

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